大判例

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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)1768号 判決

原告 兼松株式会社

被告 増田金十郎

一、主  文

被告は原告に対し金百三十九万九千六百十九円五銭及びこれに対する昭和二十四年七月一日より右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り金四十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対して金百三十九万九千六百十九円五銭及びこれに対する昭和二十三年六月二十二日より右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、被告は増田鉄工所なる商号にて諸機械の製造販売をなしていたものであるが、原告は被告より昭和二十二年七、八、十一月の三回に亘りN型四四綿力織機五十台宛合計百五十台を単価三万二千円の割合で納期はいずれも同二十三年五月末日として買受ける契約を締結したが、納期を過ぎた同二十四年四月三日迄に被告から引渡を受けた織機は漸く百四台に達した程度であり、その後、これが引渡を受けなかつたところ同年六月末日被告より残四十六台についてこれが契約解除の申出があつたので、原告はこれを承諾し、右部分の売買契約は合意解除せられた。しかるに原告は被告に対し同二十二年七月七日より同二十三年六月二十二日までの間十八回に亘り右売買代金の前渡金として合計四百十三万三千円を交付し又引渡済織機の代金の一部として二百二十五万九千二百四円五銭を支払つているので合計六百三十九万二千二百四円五銭を交付したが、同二十三年十二月二十七日に原告は右支払金中から七万五千百二十五円の返還を受けているので、これを控除すると原告が被告に支払つた残金は六百三十一万七千七十九円五銭となつており、一方被告より引渡を受けた織機の代金はその後被告より約定単価値上げの要求があつたので原告はこれに応じ結局別紙<省略>代金計算書単価欄記載の通り値上げすることに合意が成立したので百四台分の代金合計は四百九十六万一千円となるが、そのうち同二十四年三月二十五日及び四月四日に引渡された織機は部分品が不足していたので被告は代金より合計四万三千五百四十円を滅額することに承諾したので右代金合計額からこれを控除すると右代金は四百九十一万七千四百六十円となるので、結局原告から被告に支払つた残金六百三十一万七千七十九円五銭から右代金四百九十一万七千四百六十円を差引くと百三十九万九千六百十九円五銭の前渡金が残る事になるので、これが返還を受ける権利があることとなつたが、被告はこれが支払をなさないので原告は被告に対し右百三十九万九千六百十九円五銭及び右前渡金を最後に交付した同二十三年六月二十二日より右完済に至る迄商法所定年六分の利息の支払を求めると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、原被告間に原告主張の日時に原告主張通りの売買契約が締結され、被告は原告より原告主張通りの前渡金並に代金を受領し、原告に対し織機百四台を引渡し、残四十六台分について、売買契約が合意解除されたこと、原告主張通り右引渡織機の部分品に不足があつたのでその代金より四万三千五百四十円が減額され又被告は原告に対し別に過払金七万五千百二十五円を返還した事は認めるが引渡織機の単価については争うものである。即ち最初契約に定められた単価が爾後原料代の騰貴に従い、その都度話合の結果値上げせられたものであるが、右契約解除して金銭の出入を精算した際、原被告間にその単価の計算について喰違いが生じ、結局被告は原告に対し前渡金返還の総額を九十万円と認めて同二十七年七月三日頃原告宛額面四十五万円の約束手形二通を振出したものであると述べた。<立証省略>

三、理  由

原被告間に於て原告主張の日時に原告主張通り綿力織機合計百五十台の売買契約が締結されたこと、原告は被告に対し原告主張通り前渡金四百十三万三千円を交付し並にこれが織機百四台の引渡を受けその代金の一部二百二十五万九千二百四円五銭を支払つたが被告より右代金から金七万五千百二十五円の返還を受けたこと、被告は原告主張の通り引渡織機の部分品不足のためその代金より四万三千五百四十円の減額をしたこと、及び原告主張の日時に残四十六台分についてこれが売買契約を合意解除したことは当事者間に争がない。

原告は織機百四台分の単価は別紙計算書記載の通り値上げすることに合意が成立しているから右前渡金及び支払済代金から前記金額を控除して精算すると、被告より前渡金百三十九万九千六百十九円五銭の返還を受くべきものであると主張し、被告は値上げされた単価は原告の主張と相違し結局原告に対し前渡金九十万円の返還義務を負担するに過ぎないと主張するので判断するに証人高松信次、水谷幸一(一部)、佐伯政一(一部)の各証言によると前記四十六台分についての売買契約解除後前渡金等の出入勘定をなし、被告は原告に対しこれが前渡金返還のため同二十七年七月二十五日頃原告宛額面四十五万円の約束手形二通を振出しているが、右は原告が右手形金額合計九十万円を以て右返還金の総額と認めて、該手形を受領したものではなくこれが一部支払を受ける方法として右手形を受領したが、いずれも不渡になり右前渡金返還債務は弁済せられなかつたことが認定できる。右認定に反する証人水谷幸一、佐伯政一の証言は措信できず、他に本件売買の約定単価が原告主張の額以上に値上げされたことを認めるに足る証拠がなく、却つて前記の各証言並に前記高松の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証を合せ考えると本件売買契約に於てその織機の単価は一応三万二千円と定められたが、その際契約後値上り等もあることとて、これが物件引渡時に於て双方協議して具体的にその単価を定める旨の約束をなしていたので、本件物件は各その引渡に際しその単価の値上げが協定せられて、双方間に於て別紙計算書記載通りの値段とすることに合意が成立し順次右物件の引渡が完了していることが認められる。すると、原告は被告に対し引渡を受けた織機百四台分の代金合計四百九十六万一千円より部分品不足による減額金四万三千五百四十円と一応支払つた代金二百二十五万九千二百四円五銭から返還を受けた七万五千百二十五円を控除した残金二百十八万四千七十九円五銭とを引去つた残額二百五十八万三千百三十円九十五銭の代金支払債務を負担しているので交付した前渡金四百十三万三千円から右代金債務二百五十八万三千百三十円九十五銭を差引くと結局前渡金百三十九万九千六百十九円五銭が残るが、前記の如く売買契約が合意解除された以上特段の事情のない本件では被告は右前渡残金を取得する法律上の原因なくしてこれに相当する利益を受け原告に同額の損害を蒙らしており、右利益は現存しているものと認めなければならない。

さて民法第七百四条によると悪意の受益者は受けたる利益に利息を附して返還する義務があるが、本件の如く契約が合意解除された場合にはその時に受益者が悪意となるものと解するを相当とするから、被告は右利益に合意解除の日の翌日である昭和二十四年七月一日から右支払済までの利息を附して返還すべきである。しかるに原告及び被告はいずれも商人であることは当事者間に争のないところであるから本件売買は商行為であると認めざるを得ないが、この場合右利息は民事商事いずれの法定利率によるべきであろうか、契約の合意解除の場合に於て当事者が相手方に負担する不当利得返還の義務はその契約と互に因果関係があるものというべく、従つて右契約が商行為であるときは、これによつて生じた商事的色彩は合意解除の結果不当利得を返還する場合にも消えてなくなるものではないのであるから、商法第五百十四条には「商行為によりて生じたる債務に関しては法定利率は年六分とす」と定められているけれども、ここに所謂「商行為によりて生じたる債務」とは商行為そのものの効力として生じたる債務に限らず広く商行為たる契約が合意解除された結果生ずる不当利得返還義務も包含し、悪意の受益者が利益に附すべき利息の利率は商事法定利率年六分であると解するを相当とする。

この事に関しては不当利得返還義務の特殊な形態である商行為たる契約を解除権に基き一方的に解除した時に生ずる原状回復義務の場合と区別しなければならない何等の合理的な理由がないのである。

しからば原告の本訴請求は被告に対し前記利益相当額金百三十九万九千六百十九円五銭及びこれに対する合意解除の日の翌日である昭和二十四年七月一日から右支払済に至るまで商事法定利率年六分の利息の支払を求める範囲に於ては正当であるから、これを認容すべきも、その余は失当であるから棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条但書を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項をそれぞれ適用して主文の如く判決する。

(裁判官 前田覚郎 鈴木敏夫 福井秀夫)

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